南米原料を仕入れる前の品質確認|仕様書・サンプル評価・検査設計の実務を解説

南米原料を仕入れる前の品質確認|仕様書・サンプル評価・検査設計の実務を解説

「サンプルは良かったのに本船が違った」を防ぐための実務手順。仕様書に書くべき項目、検討用・船積み・保存の3種類のサンプル、カビ毒や残留農薬の検査設計、結果を左右するサンプリング方法、COA(分析証明書)の読み方、日本の輸入検査制度、不適合時の取り決めまで整理しました。

公開日:2026年9月11日 / 南米新聞・輸入と貿易・南米ビジネス・南米原料 / 最終確認:2026年8月17日(日本時間)

この記事の結論

南米から原料を仕入れるとき、いちばん多い失敗は「サンプルは良かったのに、届いた本船が違った」です。これは相手が不誠実だから起きるのではなく、多くの場合、合意の書き方が足りないから起きます。

  • 先に決めるべきは価格ではなく仕様書(スペック)です。何を、どの数値の範囲で買うのかを文書にします。
  • サンプルは3種類使い分けます。検討用の見本、船積みロットから抜いた見本、そして揉めたときのための保存見本です。
  • 検査は「全部やる」ものではありません。商材ごとに起きやすい事故から逆算して項目を選びます。
  • 分析証明書(COA)はロット番号・検査日・検査方法・定量下限まで見ないと意味がありません。「不検出」は測り方次第で変わります。
  • そして不適合が出たときの取り決めを、契約の段階で書いておくこと。ここを空欄にしたまま船積みするのが、いちばん高くつきます。

南米の原料を扱いはじめた企業から、同じ形の相談を受けることがあります。

「サンプルはすごく良かったんです。それで発注したら、届いたものが全然違って」

この話には、たいてい共通する背景があります。サンプルを受け取った時点で、何を確認したのかが記録されていない。気に入ったから買った。合意したのは価格と数量だけ。だから、届いたものが違っても「違う」と言う根拠が手元にありません。

この記事では、南米から原料を仕入れる前に何を決め、何を測り、何を書面に残すべきかを、実務の順番どおりに整理します。食品原料を主に想定していますが、考え方は化粧品原料や雑貨にも共通します。

ブラジル・ヴィトリア港でコンテナ船の荷役が行われている様子
ブラジル・ヴィトリア港のコンテナターミナル。ここに載った時点で、品質はもう変えられません。決着をつけるのは、船が出るより前の工程です。写真:Alacoolwiki、CC BY-SA 4.0、出典:Wikimedia Commons

なぜ「サンプルOK」で始めると事故るのか

理由は3つあります。

1. サンプルは、たいてい一番良いものです。悪意の話ではありません。送る側は当然、自社の商品をよく見せたい。選りすぐった一握りを送るのは、商習慣として自然なことです。

2. 農産物・林産物はロットごとに違います。工業製品と違い、収穫年、産地、天候、乾燥条件でばらつきます。「前回と同じもの」を再現するには、意識的な管理が要ります。

3. 良し悪しの基準が、双方で違います。「香りが良い」「粒が揃っている」は、数値化しなければ共有できません。同じ言葉を使って、違うものを想像したまま取引が進みます。

だから最初にやるべきは、値段を聞くことでも、サンプルを取り寄せることでもありません。「自分たちが買いたいものは、どんな数値の範囲にあるか」を決めることです。

仕様書に何を書くか

仕様書(スペックシート)は、取引の土台になる1枚です。ここに書いていないことは、あとで主張できません。

区分 書くべき項目
同定 品名(一般名・学名)、原産国と産地(州・県まで)、品種、収穫年
形態 原体/粉末/ペースト/抽出物の別、粒度(メッシュ)、サイズ規格、抽出溶媒と濃縮倍率
官能 色調、におい、味。可能なら標準見本(リファレンス)と対比する形で定義する
理化学 水分値、水分活性、灰分、pH、一般成分。該当すれば指標成分の含量と分析法
安全性 微生物、カビ毒、重金属、残留農薬。それぞれ規格値と検査方法をセットで
異物 夾雑物の種類と許容割合、金属探知の有無、選別工程の内容
表示・法規 使用添加物・加工助剤、アレルゲン、遺伝子組換えの有無、有機等の認証
荷姿 内装・外装、正味重量、パレット仕様、ロット番号の付け方、賞味期限と保存条件
書類 ロットごとに求める証明書の種類と、その発行者(自社検査か第三者機関か)

ポイントは「規格値」と「検査方法」を必ずセットで書くことです。同じ項目でも、測り方が違えば数字は変わります。「水分12%以下」だけでは、どの方法で測った12%なのかが定まりません。

もうひとつ。許容範囲(トレランス)を書いておくと、現場が動きやすくなります。「目標値」と「これを外れたら不適合」の2段構えにしておくと、わずかな逸脱で毎回止まる事態を避けられます。

サンプルの3種類

サンプルという言葉を、1つの意味で使っていると混乱します。実務では、少なくとも3つに分けます。

種類 役割と注意点
①検討用サンプル 採用可否を判断するための見本。これは「その工場の上限値」だと考える。ここで合格しても、量産で同じものが来る保証はない
②船積みサンプル 実際に船積みするロットから抜いた見本。ここが合否の基準になる。抜き方まで含めて合意しておく
③保存サンプル 売り手・買い手が同じロットの見本を封印して保管する。争いになったとき、これがないと話が終わらない

③の保存サンプルは、軽視されがちですが決定的です。到着後に問題が出たとき、「積んだときはこうだった」と「着いたらこうだった」を突き合わせられるかどうかで、責任の所在が輸送側にあるのか生産側にあるのかが分かれます。

保管期間(賞味期限+α)、数量、保管条件を仕様書に書いておきます。

検査項目の組み立て方

検査は費用も時間もかかります。全項目をやれば安全ですが、現実的ではありません。その商材で実際に起きている事故から逆算して選ぶのが基本です。

食品分析に使われる液体クロマトグラフ質量分析計
食品検査機関の液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)。残留農薬やカビ毒の定量に使われる装置です。「何の装置で測ったか」は、証明書を読むうえで重要な情報になります。写真:Sarka Na kopci、CC BY-SA 4.0、出典:Wikimedia Commons
検査の種類 とくに注意が要る南米原料の例
カビ毒
(アフラトキシン、オクラトキシンA)
ナッツ類(ブラジルナッツ等)、乾燥果実、香辛料、穀類。湿潤な環境で乾燥に時間がかかる商材はすべて対象
残留農薬 果実、野菜、茶葉、ハーブ類。日本はポジティブリスト制度のため、現地で認可されている農薬が日本で基準未設定という事態が起きうる
重金属
(鉛・カドミウム・ヒ素・水銀)
鉱山地帯周辺の農産物、根菜、藻類、粘土鉱物系の素材
微生物 粉末原料、乾燥果実、非加熱で使う素材。一般生菌数、大腸菌群、サルモネラなど
異物・夾雑物 天然採集品全般。石、殻片、植物片、虫害。選別工程の有無で結果が大きく変わる
真正性 高付加価値の粉末・抽出物。増量や別種の混入がないか。DNA鑑定や成分プロファイルで確認する場合がある

残留農薬については、日本のポジティブリスト制度の理解が欠かせません。基準が設定されていない農薬には一律基準(0.01ppm)が適用されるため、「現地では合法的に使われている農薬が、日本ではほぼ検出不可のレベルでしか許されない」という状況が起こります。産地で何を散布しているのかを、早い段階で聞いておくべき理由がここにあります。

関連記事:南米から食品を輸入する手順|食品衛生法の届出・検疫・HSコード・通関の流れを解説

どう抜くかで結果が変わる

見落とされがちですが、検査結果の信頼性は、分析装置の精度よりもサンプリングの設計で決まります。

典型的なのがカビ毒です。アフラトキシンは、ロット全体に均等に分布しません。ごく一部の粒に、極端に高い濃度で偏在します。そのため、袋の口から少し取っただけのサンプルは、ロットの実態をまったく反映しません。汚染された粒を引けば「高濃度」、引かなければ「不検出」。どちらも真実ではありません。

この性質のため、国際的なサンプリング基準では、ロット全体から多数の小分けサンプル(インクリメント)を取り、それを混合して縮分する方法が定められています。EUがナッツ類のカビ毒検査について、総サンプル重量やインクリメント数を細かく規定しているのはこのためです。

サンプリングで合意しておくこと

  • 誰が抜くか(工場、第三者検査会社、買い手の駐在員)
  • 何袋から、何か所ずつ、合計何グラム抜くか
  • 混合・縮分の方法
  • 抜いたサンプルを何分割するか(検査用・保存用・相手用)
  • 封印の方法と、立会いの有無

「工場が自分で抜いて、自分で測った」結果しか手元にない状態は、リスクが高いと考えたほうがよいでしょう。金額の大きい取引や、初回の取引では、第三者による船積み前検査(PSI)を入れる価値があります。

分析証明書(COA)の読み方

COA(Certificate of Analysis/分析証明書)は、送られてくれば安心という書類ではありません。読むべき箇所が決まっています。

確認箇所 見るポイント
発行者 工場の自社検査か、第三者検査機関か。認定(ISO/IEC 17025等)の有無
ロット番号 インボイス・パッキングリスト・外装表示と一致しているか。ここがずれている書類は珍しくない
検査日 製造日より後か。前回ロットの証明書が使い回されていないか
検査方法 仕様書で指定した方法と同じか。簡易法と公定法では結果が違うことがある
定量下限(LOQ) ここが最重要。規格値より十分に低いか。LOQが規格値と同じなら、その検査は合否を判定できていない
単位 mg/kg(ppm)と μg/kg(ppb)の取り違えは、1,000倍の誤読になる

とくに「不検出(Not Detected / ND)」という記載には注意が必要です。これは「ゼロ」ではなく、「その検査方法の定量下限を下回った」という意味です。定量下限が書かれていないND表記は、情報としてほとんど価値がありません。

日本の輸入検査制度との関係

ここまでは民間同士の取り決めの話でした。これとは別に、日本に着いたあとの制度上の検査があります。両者は目的が違うので、分けて理解しておきます。

食品等を営業目的で輸入する場合、検疫所への食品等輸入届出が必要です。そのうえで、検疫所が関わる検査には主に次の種類があります。

種類 内容
検査命令 法違反の可能性が高い食品等について、輸入者に検査が命じられる。費用は輸入者負担で、結果が出るまで輸入手続きは進まない
モニタリング検査 国が年間計画に基づいて実施する検査。結果を待たずに輸入手続きは進む
行政検査 検疫所の食品衛生監視員が行う検査。初回輸入時などに実施されることがある
指導検査(自主検査) 輸入者自身の衛生管理として、定期的に(初回輸入時を含め)実施するよう検疫所から指導されるもの

出典:厚生労働省・各検疫所の公開情報(2026年8月確認)

実務で効くのは「検査命令の対象になっている品目・産地かどうか」を、輸入前に調べておくことです。対象であれば、通関に日数と費用がかかる前提で計画を組む必要があります。

また、初めて輸入する品目については、検疫所への事前相談が使えます。届出の要否、必要書類、想定される検査項目を先に確認しておけば、港で止まってから慌てることを避けられます。

なお、公的な用途で検査成績書が必要な場合、厚生労働大臣の登録を受けた検査機関(登録検査機関)で試験を受ける必要があります。産地の工場が出した証明書では代替できない場面がある、ということです。

不適合が出たときの取り決め

いちばん見落とされ、いちばん高くつくのがここです。「品質に問題があった場合はどうするか」を、船が出る前に文書にしておきます。

契約に入れておく項目

  • 再検査の権利:買い手が不適合と判断した場合、どの機関で再検査するか。その結果を最終とするか
  • 費用負担:再検査の費用、保管料、返送費用を誰が持つか
  • 処理方法:返品/値引き(クレーム処理)/選別しなおし/廃棄のうち、どれを選べるか
  • 期限:到着後何日以内に申し立てるか
  • 支払条件との連動:船積み前検査の合格を、支払いの条件に紐づけるか

特に「どの検査結果を最終とするか」は必ず決めておきます。これが曖昧だと、売り手の証明書と買い手の検査結果が食い違ったまま、議論が平行線になります。

関連記事:南米農産物を日本へ|輸入を検討するときの基礎

産地に投げる確認リスト

最後に、初回の商談で聞いておくとよい質問をまとめます。相手の答え方そのものが、その工場の管理水準を示します。

  1. この原料はどの州・どの地域で採れたものですか。年によって産地は変わりますか
  2. 収穫(採集)から乾燥・加工までに、通常どれくらいの時間がかかりますか
  3. 直近3ロットの分析結果を見せてもらえますか(1つではなく複数)
  4. 検査はどこで行っていますか。第三者機関を使うことは可能ですか
  5. ロット番号はどう付けていますか。原料まで遡れますか
  6. 不適合が出たロットは、これまでどう処理してきましたか
  7. 保存サンプルは保管していますか。何か月分ですか
  8. 年間で供給できる量と、そのうち当社に割ける量はどれくらいですか

3番の「直近3ロット」は、意図があります。1ロットだけなら良いものを選べますが、連続する3ロットを出せるかどうかで、ばらつきの幅と、記録が残っているかどうかが同時に見えます。

Misioneroの視点

ここまで書いてきたことは、突き詰めると「疑ってかかれ」という話ではありません。むしろ逆です。

条件が文書になっていない取引は、双方にとって不安定です。売り手にしてみれば、何を満たせば合格なのか分からないまま出荷し、着いてから文句を言われるのはたまりません。基準が明示されていれば、そこに向けて工程を整えることができます。

私たちが産地とやりとりするとき、規格の話を早い段階でするのはそのためです。価格の交渉より先に、何を良しとするかの合意をつくる。それができた相手とは、次のロット、その次のロットと続けられます。

そして続く関係になってはじめて、産地の側にも設備を整える理由が生まれます。検査で落ちない品質は、買い叩いた先には出てきません。品質管理の話と、対等な取引の話は、実は同じことを別の角度から言っているだけだと考えています。

関連記事:対等な取引が生む価値|南米と日本をつなぐビジネス

南米原料の調達をお考えの企業様へ

Misionero株式会社では、南米の文化や背景を大切にしながら、現地の価値ある原料を日本へ届ける事業を行っています。原料の輸入、製品開発、OEM、販路づくりに関心のある企業様は、お気軽にご相談ください。

仕様書の項目立て、検査項目の設計、産地への確認事項の整理といった、実務段階のご相談も承っています。

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よくある質問

サンプルが良ければ、そのまま発注してよいですか?

おすすめしません。検討用サンプルは、その工場が出せる最良のものである場合が多いためです。発注前に仕様書で規格を決め、船積みロットから抜いたサンプルで判定する流れをつくってください。

検査は毎ロット必要ですか?

商材とリスクによります。カビ毒や残留農薬のようにロット差が大きい項目は毎ロット、変動しにくい項目は定期的に、といった設計が現実的です。取引実績を重ねて安定を確認できた段階で、頻度を見直します。

「不検出」と書いてあれば安心ですか?

いいえ。不検出は「その検査方法の定量下限を下回った」という意味で、ゼロではありません。定量下限(LOQ)が規格値より十分に低いかを必ず確認してください。

船積み前検査(PSI)は必ずやるべきですか?

必須ではありませんが、初回取引、金額の大きい取引、不適合時の損害が大きい商材では、費用に見合うことが多いです。着いてから問題が分かると、返送・廃棄・欠品の3つが同時に発生します。

現地の工場が出した分析証明書だけで通関できますか?

ケースによります。検査命令の対象品目では、厚生労働大臣の登録を受けた検査機関による成績書が求められます。初めて輸入する品目は、事前に検疫所へ相談しておくのが確実です。

まず何から手をつければよいですか?

仕様書の作成です。自社が「何を、どの数値の範囲で買いたいのか」を1枚にまとめるところから始めてください。それがないと、サンプルを見ても判断ができません。

主な出典・参考情報

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