チリという国|銅・サーモン・ワイン・果物で見る産業と対日貿易を解説

チリという国|銅・サーモン・ワイン・果物で見る産業と対日貿易を解説

南北4,300kmの細長い国チリを、アタカマ砂漠の銅とリチウム、フィロキセラを免れたワイン産地、南半球の端境期を埋める果物、南部フィヨルドのサーモン養殖から解説。日本の対チリ貿易の実額と、日チリEPAを実際に使うための確認事項まで整理しました。

公開日:2026年9月8日 / 南米新聞・国別情報・南米ビジネス・輸入と貿易 / 最終確認:2026年8月17日(日本時間)

この記事の結論

チリは、南北に約4,300km、東西の平均幅は約180kmという極端に細長い国です。この形が、そのまま産業の多様さになっています。

  • 北は世界有数の乾燥地帯であるアタカマ砂漠。ここに世界最大級の銅鉱山とリチウムの塩湖があります。
  • 中央部は地中海性気候で、ワインと果物の産地。南は雨の多いフィヨルド地帯で、サーモン養殖の拠点です。
  • 日本はチリにとって主要な輸出先のひとつで、日本側から見ると大幅な輸入超過です。2025年の日本の対チリ輸入は約1兆3,469億円、輸出は約2,593億円でした。
  • 日本が買っているものは銅鉱、冷凍魚、モリブデン鉱、豚肉、ぶどう酒、ウッドチップ。ほとんどが一次産品と加工食品です。
  • 2007年発効の日チリEPAがあり、原産地証明書をそろえれば特恵税率が使えます。南米の国としては初のEPA相手国です。

日本のスーパーで、チリ産の商品に出会わない日はほとんどありません。ワインの棚、鮮魚のサーモン、果物売り場のぶどう、そして精肉の豚肉。南米のなかで、日本の日常にもっとも深く入り込んでいる国だと言っていいと思います。

それなのに、チリという国そのものの姿は意外と知られていません。なぜワインが強いのか。なぜサーモンなのか。なぜこれだけ日本と取引があるのか。答えの多くは、この国の「形」にあります。

この記事では、チリの地理から主要産業、日本との貿易関係とEPAの使い方まで、調達を検討する立場から整理します。

アンデス山脈を望むチリ・プエンテアルトのぶどう畑
サンティアゴ近郊プエンテアルトのぶどう畑。背後に雪をいただくアンデス山脈が迫ります。この山脈が東側の壁になっていることが、チリの農業条件を決めています。写真:Fsanchezs、CC BY-SA 3.0、出典:Wikimedia Commons

チリという国の基本

正式名称 チリ共和国(República de Chile)
首都 サンティアゴ(人口約740万人、2024年国勢調査)
面積 約75万6,000km²(日本の約2.0倍)
人口 約2,015万人(2026年予測)
言語 スペイン語
通貨 チリ・ペソ(CLP)
政体 立憲共和制
隣国 ペルー、ボリビア、アルゼンチン
1人あたりGDP 17,735米ドル(2025年)。南米では上位

出典:ジェトロ「チリ 基礎的経済指標」(2026年8月確認)

細長い国という条件

チリの特徴を一言でいえば、「縦に長く、横がない」ことです。南北に約4,300km、東西の平均幅は約180kmしかありません。日本列島も細長い国ですが、チリはその比ではありません。

この形をつくっているのが、東のアンデス山脈と西の太平洋です。国土はこの2つに挟まれた細い帯にあたります。さらに北は世界有数の乾燥地帯であるアタカマ砂漠、南は氷河と海峡の入り組んだ地帯。四方を自然の壁に囲まれていると言ってよい配置です。

チリ・アタカマ砂漠の月の谷に広がる岩と塩の地形
アタカマ砂漠の「月の谷(Valle de la Luna)」。白く見えるのは塩の結晶です。降水がきわめて少ないため、この景観がほとんど変化せずに残ります。写真:Diego Delso、CC BY-SA 4.0、出典:Wikimedia Commons

この「壁」には、2つの効果があります。

1つは、気候帯が縦に並ぶこと。北から南へ、砂漠 → 半乾燥 → 地中海性 → 温帯 → 冷涼な多雨地帯と、順番に変わります。1つの国のなかに、まったく違う農業と産業が同居できます。

もう1つは、病害虫が入りにくいこと。これは農業にとって決定的な条件で、後述するワイン産業の強みに直結しています。

銅 — 国の背骨

チリを語るとき、最初に来るのは銅です。チリは世界最大の産銅国であり、世界の鉱山生産のかなりの部分を占めるとされます。国家財政も、輸出構造も、この鉱物に強く結びついています。

チリ北部チュキカマタの露天掘り銅鉱山
チリ北部のチュキカマタ銅鉱山。世界最大級の露天掘り鉱山として知られ、階段状に掘り下げられた斜面を大型ダンプが行き来します。写真:Reinhard Jahn、CC BY-SA 2.0、出典:Wikimedia Commons

代表的なのが、北部にあるチュキカマタエスコンディーダです。前者は国営銅公社コデルコ(CODELCO)が運営する世界最大級の露天掘り鉱山で、後者は世界有数の生産量を持つ鉱山です。

日本との関係も、ここが中心です。日本の対チリ輸入の最大品目は銅鉱で、輸入額全体のなかで突出しています。日本国内の製錬所に入る銅精鉱の重要な供給元であり、電線・自動車・電子部品といった川下の産業まで含めて、この供給ラインの上に成り立っています。

あわせてモリブデン鉱も主要な輸入品目です。銅鉱の副産物として産出されることが多く、特殊鋼の添加元素として使われます。

なお、鉱業は水と電力を大量に使う産業です。乾燥地帯での水利用や地域社会との関係については、チリ国内でも議論があります。資源があることと、それを取り出す条件が安定していることは別の話です。

アタカマ塩湖とリチウム

アタカマ砂漠には、銅とは別の資源もあります。アタカマ塩湖(Salar de Atacama)のかん水から採るリチウムです。

アルゼンチン北西部、ボリビア南部とあわせてリチウム・トライアングルと呼ばれる一帯の一角にあたります。塩湖の地下からリチウムを含む塩水を汲み上げ、広大な蒸発池で天日濃縮する方式が中心です。

関連記事:アルゼンチンという国|牛肉・大豆・ワイン・リチウムで見る産業と暮らしを解説

チリのリチウム産業は、国家の関与の度合いをめぐる制度議論が続いてきた分野でもあります。制度が動く可能性のある領域だという前提で見ておくのが妥当です。

ワイン — 隔離された土地の強み

チリワインが日本で広く飲まれている理由は、価格だけではありません。この国の地理的な条件が、ぶどう栽培にとって例外的に有利だったという背景があります。

19世紀後半、ヨーロッパのぶどう畑はフィロキセラ(ブドウネアブラムシ)によって壊滅的な被害を受けました。以後、世界の多くの産地ではアメリカ系の台木に接ぎ木する方法が標準になります。

ところがチリは、北の砂漠・東のアンデス・西の太平洋・南の氷河という四方の壁に守られ、この害虫の被害を免れた数少ない産地のひとつとされています。結果として、接ぎ木せずに自根で栽培できる畑が残りました。

もうひとつ象徴的なのがカルメネール(Carménère)です。もとはボルドーの品種でしたが、フィロキセラ以降フランスではほぼ姿を消しました。ところが1990年代、チリでメルローとして栽培されていた樹の一部が、実はカルメネールだったことが判明します。ヨーロッパで失われた品種が、地球の反対側で生き延びていたという話です。現在ではチリを代表する品種のひとつとして扱われています。

主産地はサンティアゴ南方に広がるセントラル・バレー(マイポ、ラペル/コルチャグア、マウレなど)。日本のワイン輸入では、数量ベースでチリ産が上位を占める年が続いています。日チリEPAによる関税面の条件も、この定着を支えてきました。

果物 — 季節が逆であることの価値

チリの農産物輸出を支えているもうひとつの柱が、生鮮果実です。ぶどう、チェリー、ブルーベリー、りんご、アボカド、キウイなどが、世界各地へ出荷されています。

強みは単純です。南半球にあるため、北半球と収穫期が半年ずれます。日本や欧米が端境期に入る時期に、チリでは収穫の最盛期を迎える。この時間差そのものが商品価値になっています。

これを支えているのが、乾燥した気候(病害が出にくい)と、輸出向けに整備された選果・冷蔵・港湾のインフラです。生鮮品を長距離輸送する前提で、産業全体が設計されています。

関連記事:南米のフルーツ一覧|日本でも注目される果物・加工品・原料を解説

サーモン — 南部フィヨルドの産業

南へ下ると、景色が一変します。雨が多く、入り組んだ入り江とフィヨルドが続く地帯。ここがサーモン養殖の拠点です。

チリ・アイセン州の入り江に浮かぶサーモン養殖の生簀
チリ南部アイセン州ウタルパ水道の養殖場。穏やかな内海に円形の生簀が並びます。この地形が、外洋の波を避けた養殖を可能にしています。写真:Jackripper11、CC BY-SA 4.0、出典:Wikimedia Commons

興味深いのは、サケ類はもともとチリの在来種ではないという点です。20世紀に導入された養殖業が、南部の地形と水温という条件に合致し、数十年で世界有数の産業に育ちました。ロス・ラゴス州、アイセン州、マガジャネス州が主要な生産地です。

日本との関わりは深く、冷凍魚は対日輸出の主要品目のひとつです。日本で「サーモン」として売られているもののかなりの部分がチリ産で、近年は冷凍フィレなど、加工度を上げた形での輸出が増えていると報告されています。

一方で、養殖密度・薬剤使用・海洋環境への影響については、国内外で議論があります。認証(ASCなど)を取得した生産者から調達するかどうかは、実務上の判断ポイントになります。

関連記事:南米の水産物と日本の食卓|アルゼンチン赤エビ・エクアドル産エビ・ペルーの魚粉を解説

日本との接点とEPA

日本とチリの貿易は、日本側の大幅な輸入超過です。

項目(2025年) 金額・内容
日本の対チリ輸出 約2,593億円
日本の対チリ輸入 約1兆3,469億円
日本が買っているもの 銅鉱、冷凍魚、モリブデン鉱、豚肉、ぶどう酒、ウッドチップ
日本が売っているもの 乗用自動車、ゴム製タイヤ、貨物自動車、建設機械、鋼材

出典:ジェトロ「チリ 基礎的経済指標」(財務省貿易統計ベース、2026年8月確認)

この表から読み取れることは、はっきりしています。日本はチリから資源と食料を買い、機械と車を売っている。典型的な垂直分業の関係です。

実務で押さえておきたいのが日チリEPA(経済連携協定)です。2007年に発効し、日本にとって南米の国では初のEPA相手国となりました。

EPA税率を使うには、原産地規則を満たしたうえで、原産地証明書を取得する必要があります。「チリから来た貨物だから自動的に安くなる」わけではありません。品目ごとに規則が異なるため、ジェトロや税関が公開しているガイドで、HSコード単位の確認が必要です。ここを詰めていないと、使えるはずの特恵を取り逃がします。

原料調達の視点で見ると

1. 輸出インフラが整っている。チリは長年、生鮮品と鉱産物を遠距離へ送り続けてきた国です。選果、冷蔵、検査、書類の整備といった輸出実務のレベルは、南米のなかでも高い部類に入ります。初めて南米から引く企業にとっては、比較的取り組みやすい相手国です。

2. EPAを使う前提で設計する。前述のとおり、原産地証明の取得は自動ではありません。見積もり段階で「EPA適用の可否」を条件として確認しておきます。

3. 気候リスクは無視できない。乾燥地帯の水不足、山火事、そしてエルニーニョ/ラニーニャの影響が、農産物と水産物の両方に効きます。単年の実績だけで供給の安定性を判断しないほうがよい商材があります。

関連記事:エルニーニョで南米はどう変わる?農産物・物流・物価への影響をわかりやすく解説

4. 大口商材と小回りの効く商材を分けて考える。銅やサーモンのような大口商材は、すでに大手商社の取引網が確立しています。中小規模の事業者が入る余地があるのは、むしろ果実加工品、ナッツ、乾物、天然素材といった、まだ日本での扱いが定まっていない領域です。

Misioneroの視点

チリは、南米のなかで「もっとも日本に近い国」だと感じます。物理的な距離ではなく、取引の作法という意味でです。

書類が整い、規格が明示され、納期の見通しが立つ。この条件がそろっている相手とは、価格交渉の前に議論すべきことがはっきりします。だからこそ、価格だけの比較に落ちやすいという面もあります。

私たちが関心を持っているのは、その先です。チリの産品には、まだ日本で語られていない背景が残っています。どの谷でつくられているのか、誰が手をかけているのか。整った取引の上に、産地の顔を乗せられるかどうか。そこに、価格以外の価値をつくる余地があると考えています。

関連記事:対等な取引が生む価値|南米と日本をつなぐビジネス

チリ産品の調達をお考えの企業様へ

Misionero株式会社では、南米の文化や背景を大切にしながら、現地の価値ある原料を日本へ届ける事業を行っています。チリをはじめとする南米産品の輸入、製品開発、OEM、販路づくりに関心のある企業様は、お気軽にご相談ください。

「この商材はEPAが使えるのか」「どの産地を当たるべきか」といった、検討の初期段階のご相談も承っています。

お問い合わせはこちら

よくある質問

チリはどこにありますか?

南米大陸の西側、太平洋に面した細長い国です。北はペルー、北東はボリビア、東はアルゼンチンと接しています。南北約4,300km、東西の平均幅は約180kmです。

チリの主な産業は何ですか?

鉱業(銅・モリブデン・リチウム)、農業(ぶどう・果実・ワイン)、水産養殖(サーモン)、林業(ウッドチップ・パルプ)です。いずれも輸出を前提に発達しています。

なぜチリワインは安くて質がよいと言われるのですか?

日照に恵まれ病害が出にくい気候、輸出向けに整備された生産体制、そして日チリEPAによる関税面の条件が重なっています。加えてフィロキセラの被害を免れた産地とされ、栽培条件の面でも有利とされます。

日本のスーパーで見かけるチリ産品は何ですか?

ワイン、サーモン(冷凍・生鮮)、ぶどうなどの果物、豚肉が代表的です。表示を確認すると、想像以上に多くの商品がチリ産です。

日チリEPAを使うと必ず関税が安くなりますか?

いいえ。品目ごとに定められた原産地規則を満たし、原産地証明書を取得した場合に特恵税率が適用されます。HSコード単位での確認が必要です。

チリから輸入するときの注意点は何ですか?

EPA適用の可否を見積もり段階で確認すること、輸送日数の長さを在庫計画に織り込むこと、そして気候変動による供給変動を単年の実績だけで判断しないことです。食品であれば食品衛生法に基づく輸入届出、畜産物であれば動物検疫の確認が必要になります。

主な出典・参考情報

関連記事