南米の水産物と日本の食卓|アルゼンチン赤エビ・エクアドル産エビ・ペルーの魚粉を解説

南米の水産物と日本の食卓|アルゼンチン赤エビ・エクアドル産エビ・ペルーの魚粉を解説

南米の水産物を、アルゼンチン赤エビ・エクアドルの養殖エビ・ペルーのアンチョベータと魚粉・南米のイカという品目別に解説。フンボルト海流が生む豊かさから、水産流通適正化法などの輸入実務まで整理しました。

公開日:2026年8月14日 / 南米新聞・食と農産物・輸入と貿易 / 最終確認:2026年8月3日(日本時間)

この記事の結論

南米は、世界有数の水産資源をもつ地域です。日本の食卓にも、エビ・イカ・サーモン・養殖魚の飼料という形で、思った以上に深く入り込んでいます。

  • 豊かさの理由はフンボルト海流(ペルー海流)です。冷たい水が深層から湧き上がり、栄養塩を海面近くへ運ぶことで、巨大な漁場が生まれます。
  • アルゼンチン赤エビは天然の大型エビ。加熱前から赤く、甘みが強いのが特徴で、日本では寿司種や刺身用として定着しています。
  • エクアドルのバナメイエビは沿岸の養殖。世界有数の生産規模を持ち、認証取得の動きも進んでいます。
  • ペルーのアンチョベータは、その多くが魚粉・魚油に加工されます。日本を含む世界の養殖業を、飼料の側から支えている資源です。
  • 水産物の輸入では、食品衛生法の届出に加え、水産流通適正化法による適法漁獲の証明が必要な魚種があります。イカを扱う場合はとくに確認が要ります。

南米というと、コーヒー、カカオ、大豆、牛肉といった陸の産物が思い浮かびます。しかし貿易統計を眺めていると、海の産物の存在感もかなり大きいことに気づきます。

スーパーの冷凍コーナーに並ぶ赤いエビ、回転寿司のエビ、養殖魚を育てる飼料。どれも南米の海とつながっています。ところが「どこの海から来たのか」まで意識されることは、あまり多くありません。

この記事では、南米の主要な水産物を品目ごとに整理し、日本の食卓との関係と、輸入するときの実務ポイントまでをまとめます。

エクアドル・グアヤス川河口に広がるエビ養殖池を捉えた衛星画像
エクアドル・グアヤス川河口に広がるエビ養殖池。上空から見ると、池が幾何学模様のように連なっています。画像:NASA Earth Observatory、パブリックドメイン、出典:Wikimedia Commons

なぜ南米の海は豊かなのか

南米大陸の太平洋側には、フンボルト海流(ペルー海流)と呼ばれる冷たい海流が北へ向かって流れています。

ここで起きているのが湧昇(ゆうしょう)という現象です。沿岸を吹く風が表層の水を沖へ押しやると、その隙間を埋めるように深層の水が上がってきます。深い海の水には、長い時間をかけて沈んだ有機物由来の栄養塩が豊富に含まれています。それが日の届く浅い層へ運ばれることで、植物プランクトンが爆発的に増える。その先に、小魚、大型魚、海鳥、海獣という食物連鎖が積み上がります。

結果として、フンボルト海流域は面積あたりの漁獲量が世界でも突出して大きい海域になりました。ペルーが長年、漁獲量で世界上位に位置してきた理由はここにあります。

ただし、この仕組みには弱点があります。エルニーニョです。太平洋赤道域の海水温が上がると、暖かい水が湧昇を妨げ、栄養塩が上がってこなくなります。プランクトンが減れば魚も減る。エルニーニョの年に南米の漁獲が大きく落ち込むのは、この構造によるものです。

関連記事:エルニーニョで南米はどう変わる?農産物・物流・物価への影響をわかりやすく解説

アルゼンチン赤エビ

日本の売り場でいちばん目にする南米の水産物は、おそらくアルゼンチン赤エビでしょう。

学名は Pleoticus muelleri、現地ではランゴスティーノ(langostino)と呼ばれます。獲れるのは大西洋側、アルゼンチン南部のパタゴニア沖です。とくにサンホルヘ湾周辺が主漁場として知られています。

特徴を整理すると、次のようになります。

  • 天然物である:エビの多くが養殖である日本市場のなかで、天然の大型エビという立ち位置は目立ちます。
  • 生の状態から赤い:加熱して赤くなるのではなく、もともと赤い。売り場での見栄えがよく、これが商品名の由来にもなっています。
  • 甘みが強い:加熱するとやや水っぽくなりやすいため、刺身・寿司種・カルパッチョなど、生に近い形での提供と相性がよいとされます。
  • 漁期がある:資源管理のため漁期と漁獲枠が設定されます。年ごとの豊凶差が価格に反映されます。

回転寿司や飲食チェーンで「赤えび」として出されているものの多くが、このアルゼンチン産です。安価な代替品として広まったというより、甘みという固有の価値で居場所をつくった品目だと言えます。

エクアドルの養殖エビ

太平洋側では、エクアドルが世界有数のエビ生産国になっています。品種はバナメイエビ(Penaeus vannamei。もともと東太平洋沿岸に分布する種で、養殖に向くことから世界中に広まりました。

エクアドルの養殖は、沿岸の河口域につくられた広大な池で行われます。記事冒頭の衛星画像に写っているのが、その池の連なりです。

エクアドル産の特徴としてよく挙げられるのは、低密度での養殖です。池あたりの投入尾数を抑え、成長をゆっくりさせる方式が広く採られてきました。密度が低ければ病気のリスクも下がり、薬剤への依存も減らせます。この点は、輸出先での評価につながってきました。

近年は、ASC(水産養殖管理協議会)などの認証を取得する事業者も増えています。トレーサビリティを求める買い手が増えたことへの対応です。

エクアドルという国の全体像は、こちらの記事で整理しています:エクアドルという国|バナナ・エビ・カカオ・パナマ帽で見る産業と暮らしを解説

ペルーのアンチョベータと魚粉

数量で見たとき、南米の水産業でもっとも大きいのはアンチョベータです。カタクチイワシの仲間(Engraulis ringens)で、フンボルト海流域に膨大な群れをつくります。

この魚の大部分は、食用ではなく魚粉(フィッシュミール)と魚油に加工されます。乾燥・粉砕して蛋白源とし、養殖魚や畜産の飼料原料として世界中へ出荷されます。

ここが重要な点です。日本で養殖されるブリやマダイ、そして世界の養殖サーモンの一部は、ペルー沖の小魚を原料とする飼料によって育っています。私たちは、意識しないまま南米の海とつながっているわけです。

アンチョベータ漁は、資源管理の枠組みがはっきりしている分野でもあります。ペルーでは海洋研究機関が資源量を調査し、その結果に基づいて漁期ごとの漁獲枠が設定されます。資源が細ると判断されれば、漁期そのものが短縮されたり中止されたりします。

とはいえエルニーニョの影響は避けられません。漁獲が落ちれば魚粉価格は上がり、世界の養殖コストに波及します。ペルー沖の海水温は、日本の養殖魚の生産コストに影響する。そういう距離感で捉えておくと、ニュースの見え方が変わります。

南米のイカ

南米は、イカの主要な供給地でもあります。中心となるのがアメリカオオアカイカ(Dosidicus gigas、現地でポタ(pota)と呼ばれる大型のイカです。ペルーからチリにかけての海域で漁獲されます。

大型で身が厚く、加工して使いやすいことから、ロールイカ、加工用のイカ、フライ用の素材などとして流通します。日本のスルメイカの漁獲が振るわない年には、代替の供給源として存在感が増します。

大西洋側では、フォークランド/マルビナス周辺海域でアルゼンチンマツイカ(Illex argentinus)が獲られています。こちらは日本のイカ加工業とも関わりの深い資源です。

イカを輸入する場合は、後述する水産流通適正化法の対象となる点に注意が必要です。

チリのサーモン

チリは、世界有数のサーモン養殖国です。日本で流通するギンザケ(コーホーサーモン)は、チリ産が中心的な位置を占めてきました。フィヨルドの入り組んだ地形と冷たい海水が、養殖に適した環境を提供しています。

チリの水産業と、それを取り巻く通商環境については、こちらの記事で詳しく整理しています:米国の対チリ関税12.5%で何が変わる?銅・果物・ワイン・水産物への影響

日本の食卓との関係

ここまでの内容を、日本側から見た形で整理します。

品目 主な産地 日本での主な用途
赤エビ(天然) アルゼンチン 寿司種、刺身、カルパッチョ、飲食チェーンのメニュー
バナメイエビ(養殖) エクアドル 冷凍むきエビ、惣菜、外食、加工食品
イカ ペルー、チリ、南西大西洋 加工用素材、フライ、珍味・練り製品原料
ギンザケ チリ 切り身、寿司種、弁当・惣菜
魚粉・魚油 ペルー、チリ 養殖用配合飼料、畜産飼料(間接的に食卓へ)
ホタテ類 ペルー、チリ 外食向け、冷凍加工品

この表を眺めて気づくのは、「南米産」と表示されないまま食卓に届いているものが多いということです。飲食店で出るエビ、惣菜のフライ、養殖魚。原産地が意識される場面は限られています。

輸入実務で押さえること

水産物は、農産物とはまた違う手続きが加わる分野です。主な確認事項を整理します。

1. 食品等輸入届出

飲食用として輸入する以上、食品衛生法に基づく届出は必須です。動物用医薬品の残留、微生物、添加物などの規格基準への適合が求められます。

2. 水産流通適正化法

正式には「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」といいます。違法・無報告・無規制(IUU)漁業の産物を市場から締め出すための制度で、2022年12月に施行されました。

この法律のもとで、指定された魚種を輸入する際には、外国の政府機関等が発行した適法漁獲であることの証明書が必要になります。イカが対象に含まれている点は、南米から水産物を輸入する事業者にとって実務上重要です。

対象魚種や運用は見直されることがあるため、取扱品目が対象かどうかは、その時点の水産庁の情報で確認してください。

3. 分類(HSコード)

エビ類 HS 0306(甲殻類)
イカ・貝類 HS 0307(軟体動物)
魚粉 HS 2301.20(飼料用の粉)

加工度や調製の有無によって項が変わるため、最終的な分類は税関への確認が確実です。

4. コールドチェーン

南米から日本までの海上輸送は、長いものでは1か月を超えます。冷凍品はマイナス18度以下の温度帯を切らさないことが前提です。リーファーコンテナの温度記録、通関時の保管、国内配送までを一続きの管理として設計する必要があります。とくに刺身用として販売する場合、温度履歴は品質そのものに直結します。

5. 表示

原料原産地名、解凍品である旨、養殖・天然の別など、水産物には固有の表示ルールがあります。商品設計の初期段階から確認しておくと、後戻りを避けられます。

資源管理と認証

水産物を扱う以上、資源の持続可能性は避けて通れない論点です。とくに大手小売や外食では、調達方針として認証を要件にする例が増えています。

  • MSC認証:持続可能な天然漁業を対象とする国際認証。
  • ASC認証:責任ある養殖業を対象とする国際認証。エクアドルのエビ養殖でも取得例があります。
  • 各国の漁獲枠制度:ペルーのアンチョベータやアルゼンチンの赤エビのように、調査に基づいて漁期と数量が管理される仕組み。

ここで冷静に見ておきたいのは、認証の有無だけが持続可能性の指標ではないということです。認証取得には費用と手間がかかり、小規模な事業者ほど負担が重くなります。認証がない=管理されていない、と短絡すると、実態を見誤ります。取引を検討する際は、認証と併せて、その国の資源管理制度と、相手先の操業実態の両方を見るのが実際的です。

Misioneroの視点

水産物は、南米との取引のなかでも「顔が見えにくい」分野です。加工を経て素材として流通するため、どの海で、誰が獲ったものかが、買い手側からは見えづらくなります。

私たちは、原料を扱うときにその背景まで含めて理解することを大事にしています。どの海域の資源なのか、どんな管理のもとで獲られているのか、加工はどこで行われているのか。それを把握しておくことは、倫理の話であると同時に、供給が止まるリスクを事前に察知するための実務でもあります。

関連記事:顔の見える取引が変えるもの|南米の生産者と向き合う

南米水産品の調達をお考えの企業様へ

Misionero株式会社では、南米の文化や背景を大切にしながら、現地の価値ある原料を日本へ届ける事業を行っています。南米産の水産物や農産物の輸入、製品開発、OEM、販路づくりに関心のある企業様は、お気軽にご相談ください。

「どの国のどの品目が自社の商品に合うか」といった検討段階からのご相談も承っています。

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よくある質問

アルゼンチン赤エビはなぜ生の状態でも赤いのですか?

体内に含まれる色素の性質によるもので、加熱によって発色するタイプのエビとは異なります。売り場での見栄えのよさにつながり、商品名の由来にもなっています。

南米のエビは天然ですか、養殖ですか?

両方あります。アルゼンチン赤エビは大西洋側で獲れる天然物、エクアドルのバナメイエビは沿岸の池で育てる養殖です。用途や価格帯が異なるため、目的に応じて選ぶことになります。

ペルーの魚粉は日本と関係がありますか?

あります。魚粉は養殖魚や畜産の飼料原料として世界的に流通しており、日本の養殖業でも使われています。ペルー沖の漁獲量の変動は、飼料価格を通じて日本の生産コストに影響します。

南米から水産物を輸入するとき、特別な許可は必要ですか?

食品衛生法に基づく食品等輸入届出が必要です。加えて、水産流通適正化法の対象魚種にあたる場合は、輸出国の政府機関等が発行する適法漁獲の証明書が求められます。イカは注意が必要な品目です。対象範囲は変更されうるため、輸入前に水産庁の最新情報をご確認ください。

エルニーニョは水産物の価格に影響しますか?

影響します。エルニーニョの年は湧昇が弱まり、アンチョベータをはじめとする漁獲が落ち込みやすくなります。魚粉価格の上昇を通じて、養殖魚の生産コストにも波及します。

冷凍で日本まで運ぶのにどれくらいかかりますか?

航路や積み替えの有無によりますが、南米から日本への海上輸送は数週間から1か月以上かかることがあります。マイナス18度以下の温度帯を維持する管理と、余裕を持った在庫計画が前提になります。

主な出典・参考情報

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